アサーティブな薬剤師が拓く、より安全で質の高い医療

今日の医療現場において、薬剤師は単に薬を調剤するだけでなく、患者さんの安全を守るための重要な役割を担っています。その中でも、特に注目されているのが医療専門職間の「コミュニケーション」です。
今回紹介する3つの研究は、薬剤師が持つべき重要なコミュニケーションスキルの一つである「アサーティブネス」に焦点を当てています。アサーティブネスとは、相手を尊重しながらも自分の意見や考えを率直に伝える能力のこと。医療現場では、このスキルが患者さんの安全な薬物療法に大きく貢献することが示唆されています。(図1)
1つ目の研究では、薬剤師のアサーティブな自己表現が、医師への処方変更の提案と深く関連していることが明らかになりました。 薬剤師が患者さんの情報や検査結果に基づいて「この処方は見直した方が良いかもしれない」と感じた時、相手の状況を考えつつ、しかし率直に医師に伝えることが、薬剤師の提案による処方変更へと繋がることが明らかになりました。アサーティブネスの高い薬剤師ほど、医師との建設的な対話を通じて、処方内容の改善を実現していることが示されました。
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230707140000.html
2つ目の研究では、薬剤師のアサーティブネスが、多剤併用(ポリファーマシー)の解消に貢献する可能性が示唆されました。 高齢者を中心に問題となるポリファーマシーに対し、薬剤師が医師に処方薬の削減や代替を提案することは、患者さんの負担軽減や副作用リスクの低減に繋がります。研究結果から、アサーティブなコミュニケーションを取る薬剤師ほど、実際に医師の処方する薬剤数を減らすことに成功していることが分かりました。
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250312140000.html
そして3つ目の研究では、薬剤師のアサーティブネスを高める要因の一つとして、多職種連携の研修会への参加が挙げられました。 医師や看護師など、他の医療専門職と意見交換をする場に参加することで、薬剤師は多様な視点に触れ、自身の考えをより自信を持って、かつ相手に配慮しながら伝える力を養うことができると考えられます。
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250127140000.html
これらの研究から、薬剤師にとってアサーティブネスは、単なるコミュニケーションスキルではなく、患者の薬物治療の安全性を向上させ、より質の高い医療を提供するための不可欠な要素であることが分かってきました。アサーティブネスは、トレーニングによって向上させることが可能ですので、そのトレーニングによって薬剤師の処方提案の促進や薬物治療の改善が見られるのか明らかにすることが望まれます。

石井 充章 講師
- 学位/博士(医学)
- 研究分野/薬局薬剤師、処方適正化、ポリファーマシー
- 研究テーマ/薬剤師コミュニケーションスキルが薬物療法の安全性の向上に与える影響に関する研究