医薬品と食品成分による腸の“記憶”と免疫の変化を探る

がん治療に使われる経口抗がん薬は、治療効果が高い一方で、腸に不調をもたらす副作用が表れやすく、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。私はこの副作用の原因のひとつとして、薬が腸の細胞に与える「エピジェネティック変化(細胞の“記憶”のようなもの)」に注目しています。
エピジェネティック変化とは、DNAの配列自体は変えずに、外からの刺激や環境によって細胞の性質や遺伝子の働き方が変わる現象です。一度変化すると、細胞がその影響を長く“覚えて”しまうことがあり、それが免疫や粘膜バリアの異常、つまり副作用として現れてくるのではないかと考えています。
さらに、私たちが日常的に摂っている食事に含まれる成分が、こうした細胞の“記憶”をやわらげたり、回復を助けたりする可能性にも注目しています。腸の免疫機能だけでなく、そこにすむ腸内細菌との関わりを含め、からだ全体のバランスをどう取り戻すかを探る研究です。
この研究を通じて、食と医薬品の相互作用を科学的に捉え、副作用の予測や予防に役立つ新しい視点を示すことを目指しています。将来的には、患者さん一人ひとりの“腸の記憶”に応じて食事や栄養を調整することで、よりやさしい治療のあり方を提案できると考えています。

植村 逸平 助教
- 学位/博士(薬学)
- 研究分野/
食品科学+エピジェネティクス研究 (Nutritional Epigenetics) - 研究テーマ/がん治療に伴うエピジェネティック変容に対する食品成分の双方向的影響と免疫および腸内環境修復に関する研究